高桐先生はビターが嫌い。
「言われてみれば可笑しいね!」
「だろ?」
と、後藤先生に言う。
…た、確かに、言われてみればそうだ。後藤先生の言う通り。
普通、転んだときって反射的に手が先に出ちゃって、手を怪我するから、顔を怪我っていうのは…ないかもしれない。
それでも、市川に「殴られた」という事実は口にしたくなくて、あたしはまた、誤魔化した。
「…ヤケドしました」
あたしがそう言うと、騙されやすい高桐先生がまた純粋に信じてくれて、納得する。
「そうなんだ、危ないじゃん。ヤケドなら痛いでしょ」
「そうですね。すっごく痛いです」
「……篠樹、どした?」
けど、後藤先生は違うのか。
まだどこか納得がいかないような顔をしている。
そんな後藤先生に、高桐先生が不思議そうに声をかけるけど、後藤先生はそれ以上何もあたしに聞こうとはしなかった。
「んー…いや、何もない」
「そう?」
「…気をつけなね、奈央ちゃん」
そしてその直後に、後藤先生とふいに交わる視線。
だけどあたしは、何だかバレてしまいそうで、その目を逸らした。
…あたしって、嘘、下手だな…。
タコ焼きを食べながら初めてそう思いつつ、同時にふいに思い出すのは今朝のあたしを殴った時の市川の顔。この怪我の原因。
…殴る前は、まるで悪魔のような表情をして見せるのに、殴ったあとは何故か…。
あたしがそんなことを静かに考えている間。
隣で、意味深にあたしを見つめている後藤先生の視線には、気付かない…。