高桐先生はビターが嫌い。

「ん、じゃあ俺行くね奈央ちゃん」

「!!…え」

「ラストのその問題は、さっき教えたのをヒントに解いてみてよ」



後藤先生はそう言うと、あたしが頷くのを見たあと、再び段ボール箱を抱えて、教室を後にしていく。

じゃあな陽太、なんて言いながら行くから…まるで先生たちも生徒なんじゃないかと錯覚してしまう。

そしてあたしは、この状況でラスト一問を解こうと試みて…

けど、その瞬間に、その後ろで高桐先生と市川の声がした。



「あっ。市川さん、今チャンスじゃん」

「…えっ」

「ほら、そこに日向さんいるから、今のうちに謝ってきなよ」

「!」



高桐先生はあたしの後ろ…というか、教室の後ろの黒板の前でそう言って、市川にそう促す。

…あ、謝るって…え、本気で…?

そんな2人の会話を少し離れたところで聞きながら、あたしは問題集に最後の答えを書いて。

問題集を机の中に仕舞おうとしたら、その時に市川が高桐先生に言う。



「むっ…無理だよ!」

「え、何で。出来るよ。先生ついてるって」

「恥ずかしいじゃん!」

「制服切り裂く方が恥ずかしいだろ~」


「…」



そう言いながら、何だかあたしとしては、聞く限りでは二人がじゃれ合ってるように聞こえてしまって。

何故かまた少し、複雑な気分になる。

それに…高桐先生の「先生ついてるって」の言葉。

その言葉を聞くと、「あたしだけじゃないんだ…」なんて。

当然なんだけど、そう思ってしまった。



「…、」



だけど、そのまま、複雑な気分でいると…
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