高桐先生はビターが嫌い。

「あ、あの……日向、」

「!」



その時、ふいに横から市川に話しかけられて。

物凄く気まずそうな顔をした市川と、目が合う。

…わ…きた。

こんなふうに、普通に話しかけられるのは…どれくらいぶりだろ。

そう思いながら、ビックリしていたら…



「えっと…あの…」

「…?」

「っ…………やっぱ、無理!」

「!」



市川は、凄く溜めた後にそう言うと…



「あ、市川さんっ…!」



鞄を持って、勢いよく教室を飛び出して行ってしまった。



「…あー…行っちゃった」



そしてそんな姿を見たあと高桐先生はそう言うと、軽くため息を吐く。

だけどそのまま、あたしがいる席に近づくと、言った。



「あの、日向さん」

「?」

「さっき、よく話してきたから。市川さんと」

「え、」

「だから、安心して?市川さんも反省してたし、次からはもう今まで見たいなこと、二度としないと思う」



そう言って、「制服は今夜届けに行くから」と、優しく微笑む高桐先生。

その言葉に、あたしは半信半疑になりながらも…だけど、さっきの市川の様子を思い出すと、嬉しくて。

また、泣きそうになる。

まさか高桐先生が、ここまでしてくれるなんて思わなくて。

そりゃあ、「力になる」とは言われていたけど、なんか信じられない…信じたくないあたしがいたし。

だけど、高桐先生を見て、思った。


先生なら…高桐先生のことなら…信じてみても、いいのかもしれない。


そう思ってお礼を言うと、高桐先生は「教師として当たり前だから」とそう言って。

その言葉にも何故か少し複雑な感情を覚えていると…その時ふいに、高桐先生が言った。



「あと…」

「…?」

「さっきの、こと…なんだけど……何で…」

「…え、」



しかし、高桐先生はそこまで言うと…



「……ん、やっぱ、何でもないや」

「!」



そう言って、気になるまま話を終わらせて、「気を付けて帰ってね」と、教室を後にしてしまった。



「…?」



高桐先生…何を言うつもりだったんだろう…?
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