高桐先生はビターが嫌い。

…………


「じゃあね、また明日」

「はい。おやすみなさい」



その後は、二人で部屋でゆったりして、何だかんだで一時間後くらいに高桐先生を玄関で見送った。

高桐先生はあたしが寂しいのをわかって、わざと長めにいてくれたのか…本当のところはわからないけど、高桐先生と二人でいた時のあたしは心から凄く安心していて。

笑顔で高桐先生を見送っていると、ドアを開ける前に、先生がふとあたしを見遣って言う。



「…あ、そだ。帰る前に」

「?」



?…なんだろう。

そう思っていたら、高桐先生が言葉を続ける。



「…これからも、何かあったら…また遠慮なく頼ってきていいから」

「!」

「ほんとは……気になってたんだ。たまに日向さんって、辛いの我慢してるように見えるから。
辛かったら先生を…俺を、頼ってよ」



高桐先生は、そう言うと…



「…じゃあね、おやすみ」



気のせいか、照れくさそうに微笑んだあと…今度こそドアを開けて、その場を後にした。



「…っ、」



けど、いきなりのそんな優しい言葉をかけられたその直後は。

あたしの顔が、また、熱くなって。

ドキドキドキドキと、心臓が…刺激する。


ポケットの中にあるスマホが、一件のラインの通知を知らせてくる。

…たぶんきっとまた、誰かからのデートの誘いなんだろう。

だけど何故か…その音にも気づかないくらいに、あたしは玄関に立ち尽くしたまま。

高桐先生の優しい顔が、離れない。



「…~っ…」



何だか少し苦しくて、でも凄く心地がいい…ふわふわした感情に、あたしは初めて襲われてしまった。

…何だ、これ…

しかし、そう考えているうちは、まだ…気づかない。
< 86 / 313 >

この作品をシェア

pagetop