高桐先生はビターが嫌い。
…………
「じゃあね、また明日」
「はい。おやすみなさい」
その後は、二人で部屋でゆったりして、何だかんだで一時間後くらいに高桐先生を玄関で見送った。
高桐先生はあたしが寂しいのをわかって、わざと長めにいてくれたのか…本当のところはわからないけど、高桐先生と二人でいた時のあたしは心から凄く安心していて。
笑顔で高桐先生を見送っていると、ドアを開ける前に、先生がふとあたしを見遣って言う。
「…あ、そだ。帰る前に」
「?」
?…なんだろう。
そう思っていたら、高桐先生が言葉を続ける。
「…これからも、何かあったら…また遠慮なく頼ってきていいから」
「!」
「ほんとは……気になってたんだ。たまに日向さんって、辛いの我慢してるように見えるから。
辛かったら先生を…俺を、頼ってよ」
高桐先生は、そう言うと…
「…じゃあね、おやすみ」
気のせいか、照れくさそうに微笑んだあと…今度こそドアを開けて、その場を後にした。
「…っ、」
けど、いきなりのそんな優しい言葉をかけられたその直後は。
あたしの顔が、また、熱くなって。
ドキドキドキドキと、心臓が…刺激する。
ポケットの中にあるスマホが、一件のラインの通知を知らせてくる。
…たぶんきっとまた、誰かからのデートの誘いなんだろう。
だけど何故か…その音にも気づかないくらいに、あたしは玄関に立ち尽くしたまま。
高桐先生の優しい顔が、離れない。
「…~っ…」
何だか少し苦しくて、でも凄く心地がいい…ふわふわした感情に、あたしは初めて襲われてしまった。
…何だ、これ…
しかし、そう考えているうちは、まだ…気づかない。