高桐先生はビターが嫌い。

陽太はそう言うと、「……まぁ、さっきはヤバかったけど」なんて、小さな声でそう言葉を付け加える。



「…?」



ヤバかった?って……なに。何が。

だけど俺はその些細な言葉を聞き逃さなくて、その瞬間「コイツ奈央ちゃんと何かあったな」と。

なんとなくそう感じたけど、でも今は敢えて聞かないことにした。

っつかそれよりも、借りてきたDVDを早く見たいから、さっさと風呂に入ってきてほしい。

俺はそう思うと、目の前の陽太に言う。



「…ん、わかった。お前がそう言うならいいんじゃね?」

「!」

「っつかさ、マジで早く風呂入って。上がったら即DVD見よ」

「…それはヤダ」



ほんと、頑固なんだよなぁ。



だけどその後は、陽太が風呂に入ったあとで結局二人でDVD観賞をした。

内容が思ったよりも怖すぎて、陽太が隣でずっと悲鳴を上げるから……これ何気に近所迷惑になってんじゃね?

…やっぱ奈央ちゃん呼ぶべきだったか。

俺がそう言うと、陽太は「それだけはやめて!」と言った。


いつも思うんだけど。

陽太って、奈央ちゃんの前じゃ凄い紳士ぶってんだよな。

だけど俺はこの時、陽太が本当に胸の内に抱えているモヤモヤには気づかずに、DVDに集中していた…。
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