高桐先生はビターが嫌い。

ど、どうしよう…。

出てもいいのかな。

ってか、出て欲しいから…かけてきてるんだよね。きっと。


あたしはそう思いながら、市川からの電話にすぐに出る勇気はなく、早く出なきゃ切れちゃうのに、しばらくの間出ずにそうやって躊躇ってしまう。

だけど、実際のことは出てみないとわからないし、思いきってそれに出てみると、電話の向こうで、聞きなれた声がした。



「…も、もしもし」

『あ。もしもし。あたし……市川、だけど』

「ああ、うん」



…そうやってお互いに気まずさいっぱいで話しながら、電話越しなのに緊張感が高鳴る。

いったい何の用があってかけてきてるのか…。

ほんとはなんとなくわかるけど、わざとわからないフリをする。

もし間違っていて、傷つくの…嫌だし。

あたしが市川の言葉を待っていると、次の瞬間、市川が今までだったら“あり得ない”言葉を口にした。



『あの、いきなり電話してごめん。あたし、日向に…謝りたくて』

「!」

『…今までの、こと』



そう言って、「電話で謝るのも何だけど」なんて言うから、更にビックリしてしまう。

まぁ、電話で謝ってくるあたり、市川らしいといえばらしいんだけど。

そんな市川の言葉に、あたしが「どうしたのいきなり」と言うと、電話の向こうで市川が言った。



『この前言われたんだ。高桐に』

「!」

『何で日向さんにそんなことするのかって聞かれて、だから…話したの。高校に入学したばっかの時のこと』

「…え、」
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