高桐先生はビターが嫌い。

だけど…あたしは、自分のことを選んでほしくはなかった。

あたしには、市川の孤独が痛いくらいにわかるから。

だから、市川の彼氏には市川のそばにいてあげてほしくて、あたしはそれを伝えて、その彼とはもう会わないようにした。

それなのに…

そのあと、結局二人はうまくいかなくて。

壊れてしまった。いや、あたしが壊してしまったのかもしれない。

その時に初めて見た、市川の涙も…あたしは未だに脳裏に焼き付いて離れないまま。



“寂しいよ…ほんとは、すっごく”

“お願いだから、毎日誰か傍にいて、普通の愛が欲しいっ…”

“あんただってそれがわかるでしょ…っ!?”



あたしが市川に嫌がらせを受けはじめたのは、その言葉を、市川に泣きながら言われてからだった。



「……市川が謝ることないよ」

『え、』



やがて市川が、その頃の話を終えた時。

あたしは、心で思うよりも先に、市川にそう言っていた。

泣きそうな、独りぼっちの部屋のなか。

あたしの声だけが、妙に部屋に響く。

そして、市川があたしの言葉に不思議そうな声をだしたのを聞くと、あたしは言葉を続けた。



「だってそうでしょ。市川のこと、また孤独にさせたのはあたしなんだし」

『…』

「確かに嫌がらせはキツかったけど…仕方ないんだって、思うようにしてたから」



だから、今はもういい。

あたしはそう言うと、顔を伏せる。

それに、その時に嫌な思いをしてるのに、あたしは未だに懲りてないしね。いや、今日はデートには行かないけど。

でも、そう思っていると…



『…何それ』

「え、」
< 93 / 313 >

この作品をシェア

pagetop