高桐先生はビターが嫌い。
あたしが少しふざけてそう言うと、高桐先生が不機嫌そうに、冗談ぽく目を細めて見せる。
それがなんだか可笑しくて、でも心配してくれているのは素直に嬉しかったから、あたしは先生の反応に笑いながらも、言った。
「…冗談ですよ。本当に、気を付けます」
「約束だからね?」
「ハーイ」
高桐先生とそう会話をしながら、やがて二人でレジに並んで。
買い物を済ませると、再び外に出る。
ああ、明日からまた学校か…早く帰って早く寝なきゃな。
そう思いながら、高桐先生の隣に並ぶと。
次の瞬間。
少し離れた場所で、聞き覚えのある声が、あたしを呼んだ。
「っ…アイリ!」
「!」
アイリ……えっ!?
突然。本当に突然、偽名を呼ばれたその瞬間。
あたしはビックリして、声がした方を振り向く。
けど、その声にビックリしたのはあたしだけではないらしく。
“アイリ”を知っている高桐先生もその声を聞くと、言った。
「…何か今“アイリ”って言わなかった?」
そう言って、周りをキョロキョロするけど…見つけられず。
だけどあたしは、高桐先生の隣ですぐに姿を発見した。
「…!?」
あたしを呼んだのは…さっきこの場所で別れたはずの、ヒトシ君だった。
「…ヒ、ヒトシ君…」
「…え?」
ヒトシ君の姿を見つけた瞬間、あたしはビックリして思わずその名前を呟く。
しかもそんなあたしの隣には、高桐先生。
マズイ…マズイ…!
あたしがそう思って内心慌てていると、そのうちにヒトシ君があたしの傍に歩み寄ってきた。