一途な御曹司に愛されすぎてます
「シンデレラ? どういう意味ですか?」

 それまで私の話にまったく聞く耳を持たなかった彼の表情が、微妙に変化する。

 私はちゃんと理解してもらえるよう丁寧に言葉を選びながら、彼の目をしっかりと見て話した。


「私が当時お付き合いしていた人は、地元の資産家の跡取り息子だったんです。現代版シンデレラって周りからずいぶん言われました」


 説明しながら、康平と付き合っていた頃の記憶が次々とよみがえってくる。

 初めて出会ったパーティ。初めてのキス。ふたりで笑い合った日々。

 胸の奥に沈んでいた思い出が、ひとつひとつ泡のように浮かんでは儚く弾けて消えていった。


「でも彼の家に挨拶に行ったとき、彼の家族から言われたんです。『あなたはうちの嫁としてふさわしくない』って。それが現実なんです」


 田舎の病院の跡取り程度でこれだ。世界的な大企業の専務との交際なんて、次元が違いすぎて笑い話にもならない。

 専務さんはやっぱり御曹司で、悪い意味ではなく純粋培養なんだろう。

 シンデレラ物語はあくまでもおとぎ話。夢や憧れは美しいけれど、現実は受け止めなければならない。
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