一途な御曹司に愛されすぎてます
「ですから、お受けすることはできません」

「……実に愚かな話だな」


 私の話を黙って聞いていた彼が、開口一番そう言った。

 そのひどく冷たい口調に、私はビクリと肩をすくめる。

 専務さんの気持ちに極力配慮して話したつもりだったけれど、怒らせてしまったんだろうか……?

 恐る恐る見上げる私の様子に気づいた彼が、「ああ、失礼」と表情を緩めた。


「あなたのことではなくて、彼のことを言ったんですよ。そんなくだらない理由であなたを逃がしてしまうとはね」


 そう言って専務さんはクスッと忍び笑いをした。

 どこか優越感を感じるその表情は、とても断られて意気消沈しているようには見えない。


「まあ、おかげで私は思わぬ幸運が転がり込んできたのだから、彼の愚鈍さに感謝するべきかな?」


 皮肉めいた微笑を浮かべた顔が徐々に接近しているのに気がついて、私は大いに焦りながらジリジリと後ずさった。

 ちょっと待って。専務さんて、一度断られたぐらいじゃめげない人?

 階上の里の件も、なんだかんだで自分の企画を押し通して大成功させたし、逆境を燃料に変えるタイプなんだろうか?
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