一途な御曹司に愛されすぎてます
 彼の唇から漂うシャンパンの香りが私の唇をふわりとくすぐって、観念した私はそっと両目を閉じた。

 もうだめ。彼からは逃げられない……。


「…………」


 そしてそのまま、数秒経過。

 あれ? なにも起こらない?

 チラリと片目を開けると、専務さんの顔がゆっくり離れていくのが見える。


「専務、さん?」


 今にも私に覆い被さる寸前だった彼はソファーに座り直し、淡々とクーラーからシャンパンを取り出してグラスに注いでいた。


「どうぞご安心ください。私は、酒の勢いで大切なお客様に不埒な真似をするような男ではありませんので」


 その言葉通り、ついさっきまで彼の全身から発散されていた甘く危険なムードは、まるで空気清浄機にかけられたように消え去っていた。


「とりあえず、本日は私の気持ちを理解していただけただけで十分です。……手ごたえもしっかり感じましたしね」
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