一途な御曹司に愛されすぎてます
 そうかと思えば、こんな子どもみたいなピュアな表情を見せる。

 なんだか彼ってこのシャンパンみたいだな。

 甘いだけでなく、辛いだけでもない。

 口に含むと少し刺激があって、でも滑らかな泡と豊かな香りに優しく包み込まれて、我を忘れさせられてしまう。


「もっとトルテも召し上がってください。このホテルのモデルになったお城に実際に伝わっていたレシピを参考にして、うちのパティシエたちが完成させた自慢の品です」


 上機嫌の専務さんがまたトルテを勧めてくれる。

 私は内心『嬉しいけど太りそうだなぁ』と思いながら、初耳の話に興味を持った。


「ここのモデルになったお城があるんですか?」


「ええ。ウィーンの地方に実在していたお城をイメージしました。いろんな伝説が残っているお城で……」


 ちょうどそのとき、専務さんの胸ポケットが鳴動した。

「失礼します」と私に断ってから立ち上がった専務さんが、部屋の隅へ向かいながら小声で電話に対応する。

 その間、私はシャンパンを味わいながら改めて部屋の中を見回した。
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