一途な御曹司に愛されすぎてます
 さっきまでふたりの話し声が響いていたのが嘘みたいな静寂が、広すぎる部屋に訪れる。

 物寂しさを感じながら、専務さんが注いでくれたシャンパンのグラスを見た。


 独特の細長いシルエットのグラスの中に、薄い黄金色の液体が絶え間なく細やかな泡を立ち昇らせている。

 洒落たラベルが貼られたシャンパンボトルを優雅に扱う男らしい指を思い出し、胸がざわめいた。

 生まれては消えていく泡を見ていると、自分の身に起きた今日一日の出来事が、ぜんぶ夢みたいに思える。


 外国の古城をモチーフにしたリゾートホテルで、ずっと会いたいと思っていた人と再会して。

 てっきりお爺さんだと思っていたその人は、びっくりするほど美形なリゾート業界の王子様。


 こんな王宮みたいなお部屋に泊まることになって、しかも王子様から愛の告白までされてしまったなんて、本当に嘘みたい。

 なにか仕掛けがあるんじゃないの? 蓋を開けたらテレビ番組の企画だったとか。

 私、どっかで隠し撮りされてるんじゃないでしょうね?

 だって私みたいな一般庶民にこんな奇跡が起きるなんて、企画じゃなかったらおとぎ話としか思えない。


 おとぎ話、か……。

 因縁の言葉が過去の悪夢がよみがえらせ、ふわふわしていた胸を一瞬で氷のように固まらせた。
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