一途な御曹司に愛されすぎてます
 私は手を思い切り引っ張られ、そのまま更衣室から引きずり出されてしまった。


「ちょ、ちょっと、なにそんなに慌ててるんですか? それに痛いんですけど!」


 私の疑問と抗議の声に耳も貸さず、彼女は容赦なく私の腕を引っ張り続けて、廊下を小走りに駆けていく。

「淳美、待って!」

 美千留が心配そうな声で叫びながら追いかけてくる。


 訳もわからず引きずられるまま正面玄関に向かって走っていたら、受付の周辺に集まる人だかりが見えた。

 みんな揃って食い入るように玄関の外に注目していて、その異様な表情を見たとたんに不安が湧き上がる。

 いったいなにがあったんだろう? これは絶対、普通じゃない。


「すみません! 通してください!」


 玄関を塞いでいる社員たちを強引に掻き分け、無我夢中で外に飛び出した私は、その場に棒立ちになった。

 目の前に一台の車が停まっている。

 私の乏しい知識が正しければ、これはかの有名な『リムジン』とかいうやつでは?

 ワイルドで剛健なフロントフェイス。全長十メートルにも届くかという現実離れしたボディは、こうして目の前にすると圧巻のひと言だ。
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