一途な御曹司に愛されすぎてます
◇◇◇◇◇

「一ヵ月ぶりですね。お元気でしたか?」

「ええ、まあ」


 私は車内を見回しながら、うわの空で隣の階上さんに答えるのが精いっぱいだった。

 予告もなく現れた階上さんに拉致されるという異常事態に、脳がうまく対応しきれていないこともある。

 でもなによりもリムジン空間の桁外れのラグジュアリー感に、すっかり度胆を抜かれてしまっていた。


 漆黒の本革製シートの座り心地は最高だし、足元のカーペットもふかふかだし、液晶モニターは三台も設置されているし。

 そもそも運転席があんなに遠いのが信じられない。

 滑らかな流線型のカウンターバーにずらりと並んだシャンパングラスの輝きが、この車が決して単純な移動手段ではないことを主張していた。


 車体に沿った横長の窓はやたらと視界が良好で、田舎の国道を走るリムジンに驚いている通行人の姿がよく見える。

 ガラス窓を突き破るような無数の視線が、痛い。

 最高級車に乗った喜びよりも、注目を浴びている気恥ずかしさの方がよほど強かった。
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