一途な御曹司に愛されすぎてます
「階上さん」

「なんでしょう?」

「わざとですよね?」

 私の短い問いに、階上さんが楽しそうに答えた。

「はい。わざとです」

 やっぱり……。

 私はガクッと両肩を下げて、ため息をついた。


 私をディナーに誘うために、わざわざリムジンなんかで迎えに来る必要はどこにもない。

 生粋庶民な私が、生まれて初めての体験に目を回す様子を眺めたくて、わざとこんな真似をしたわけだ。


「その理由はご説明しなくてもわかりますね? 置き去りにされた私からの、ささやかな仕返しです」


 仕返しなんて物騒なセリフに似合わぬ魅惑的な表情を、窓から差し込む淡い夕暮れの日差しが彩っている。


 一ヵ月ぶりの美貌につい見惚れている私に、彼はそれまでの朗らかな様子から一変して、厳しい顔つきで腕組みしながら語った。


「あなたがどうして私の前からなにも言わずに立ち去ったのか、理解はしているつもりです。でも納得はしていません」


 黒い瞳の射貫くような強さを受けて、とっさに美千留の言葉を思い出した。

『淳美は納得しているみたいだけと、階上さんの方はぜんぜん納得していない』
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