一途な御曹司に愛されすぎてます
 やめて。そんな目をして『会いたかったか?』なんて聞かないで。

 その答えはひとつしかない。

 あれからあなたは、何度も私の夢に現れた。鳴らない電話を見るたびに、寂しくて胸が痛んだ。

 でもそんなこと言えない。

 言ってしまったら、認めてしまったら、いつかきっといろんな意味で私たちは傷つくから……。


 言葉もなく、お互いの視線が絡み合う。

 少しずつ黄昏の色味を増す空間に響くのは、単調な走行音と、いつもより速い自分の鼓動の音だけ。

 彼が私に会いに来てくれたという事実が、私の心に甘くて切ない、複雑な感情を揺り起こす。

 なにも語らない私たちの間に淡々と時間だけが過ぎて、やがて……そんな感傷的な空気を破るように、彼の唇がゆっくりと動いた。


「矢島様」

「はい……」

「体験レポートを提出してくださって、どうもありがとうございました」

「はい?」


 いきなりの話題転換に、目が点になった。

 体験レポート? あ、モニター旅行に参加した感想ね?

 たしかにちゃんと期限内に仕上げて送ったけれど、それを今このタイミングで言うの?
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