一途な御曹司に愛されすぎてます
 考えの読めない食わせ者と思いきや、少年みたいに素直な笑顔で人を惹きつけて、洗練された仕草に男の色香を漂わせる。

 彼のすべてが風にふわりと舞う花びらのように予測ができなくて、つい目で追ってしまう。

 その時点で、もう私は彼に捕まっているということなんだろうか……?


「なにをボンヤリ考え込んでいるんだ? 料理が冷める前に食べよう」

「あ、はい。いただきます」


 地場産のお肉や魚介類、季節の野菜をふんだんに使った料理が次々と運ばれてくる。

 もちろんどの料理も美味しいし、まるで芸術作品みたいに美しい盛りつけは目にもご馳走だ。


 階上さんは巧みな話術で、このリゾートホテルが建った際の裏話とかを教えてくれて、少しも飽きさせない。

 でも私はどうしても、心から楽しい時間を過ごすことができなかった。


 彼に対する私の答えは出たはずなのに、一緒に食事なんかしてもいいの?

 どうして私は、きっぱり断らないんだろう? その気になればできるはずなのに。

 自分の行動を歯痒く思う気持ち。彼が会いに来てくれたことを純粋に嬉しく感じる気持ち。

 そのどちらも私にとっては本心で、今にも心が真っぷたつに割れそうだ。

 距離と時間がきっと彼を忘れさせてくれると思っていたのに……。
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