一途な御曹司に愛されすぎてます
 思ってもいない方向にどんどん転がっていく話に混乱して、うまく言葉が出てこない。


 すっかり動揺している私の態度をどう勘違いしたものか、お姉さんたちがみるみる眉尻を吊り上げる。


「あなた、またうちの康ちゃんをたぶらかそうとしていたのね!?」


「純粋そうな顔して、なんてタチの悪い女なのかしら!」


 それは誤解ですと説明したくても、ふたりがかりでギャアギャア騒ぎ続けて、口を挟む隙を与えてくれない。

 騒ぎの張本人の康平は、『また始まった』といった顔で黙り込んでしまうし。

 ああ、もう、本当にこの人は。

 ついさっき、ちゃんとフォローするとかなんとか言ってたくせに!


 悪化の一途をたどる状況に眩暈を起こしそうになっていたら、いきなり『バシン!』とすごい音が響いて、私の体がビクッと跳ねた。


「……おいくら?」

 テーブルの上に片手を置いたお母さんが、半目で私を見据えている。

 その全身から漂う迫力に気押された私は、ドキドキしながら「え?」と小さく聞き返した。

 お母さんは眉間に深い皺を寄せて、口元を歪ませながら答える。


「いくら払えば、うちの息子から手を引いていただけるのかと聞いているのよ。それがお望みなんでしょう?」


 頭を鈍器で殴られたような衝撃を受け、全身から血の気が引いた。

 私を蔑む強烈な視線を真正面から浴びて、胸の奥が焼け焦げたみたいに痛む。
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