一途な御曹司に愛されすぎてます
 そして一礼して、悠希さんと一緒にこの場から立ち去ろうと歩き始めたとたん、小さな含み笑いが聞こえた。

 振り返ると、康平が腕組みしながら肩を揺らして笑っている。


「……なにか?」

 立ち止まった悠希さんが、物静かな声で康平に話しかけた。

 穏やかな表情ながら、声にも態度にも押し殺した凄みが滲んでいる。

 卑屈な顔で笑っていた康平は悠希さんとは視線を合わせず、プイと顔を背けて答えた。


「べつに。まさに“言い得て妙”だなぁと思っただけさ」


 悠希さんが康平の方へ一歩踏み込み、「それはどういう意味でしょうか?」と聞き返すのを、私はハラハラしながら見守っていた。


 康平ったら、なにを言い出すつもりなんだろう?

 お願いだからまた変なことを言い出して、火種をまき散らさないで‥‥‥。


「きっとうちの息子が言いたいのは、『豚に真珠』ということですわ」


 その冷たい声が私の心臓を思い切り鷲掴んだ。

 空気が一瞬で凍りつき、全身の血が一気に引いていく。

 ……豚? それ、私のこと?
< 221 / 238 >

この作品をシェア

pagetop