一途な御曹司に愛されすぎてます
 実直に努力しても、生まれのせいで色眼鏡で見られるなんて、さぞ悔しい思いをしたはずだ。

 セレブって悠々自適な人生を約束された恵まれた存在だと思っていたけれど、セレブにはセレブの苦労があるんだな。


「私も先日、企画を練って本部に提出したんです」

 自分の仕事の話が自然と口から出てきた。

 私と彼とでは立場も状況もぜんぜん違うけれど、お互い企画を通そうと苦労した者同士だ。


「何ヵ月も時間をかけて準備したんです。ひとつの仕事を始動させるって本当に大変ですよね。専務さんの気持ちがわかる気がします」


「矢島様、お仕事は?」


「食品卸売業の事務です。でもただの事務仕事より、もっとやりがいとか実績がほしくて頑張って……」


 そこまで言って、私は言葉を止めた。

『ただの事務』という自分の言葉に引っ掛かりを覚えたからだ。
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