アナスタシア シンデレラ外伝
エラは継母に取りつく島がないのを見て、アナスタシアに小声で話しかける。ドリセラは既にエラを避けるようになっていた。
「ねぇ、ドリセラお姉様はどうして貴族の方と結婚なさらないの?」
「もう好きな人がいるからよ。」
「でも貴族の方のほうが。。」
「愛はお金じゃ買えないのよ。」
「毎日働くのでしょう?大変じゃないの?」
「そりゃ大変だけど、働かない方が退屈で仕方ないわ。脳みそ腐りそう。」
社交辞令、礼儀作法、貴族の娘として立派であろうとすれば、学ぶことはいくらでもあるし、退屈ではないのだろう。だが、アナスタシアはそれが何を生み出すのかちっとも分からず、興味が持てずにいた。
市場で自分が買ってきた食材で、自分が作った夕飯を家族が美味しいと食べてくれた時の喜び。父さんの魔法の指が縫った生地が素晴らしいドレスに仕立て上がった瞬間。夜遅く、ロウソクの火に浮かび上がる母のデザイン画。工房で初めて鋏を持たされた日の姉の笑顔。
アナスタシアの言葉にエラは怪訝な顔をして首を傾げた。エラには分からないのだ。アナスタシアは義妹に優しい笑みを返した。