アナスタシア シンデレラ外伝
 アナスタシアが父親を亡くしたことや、市井の出身でありながら、今貴族の身分を与えられ、この屋敷で生活していることを気軽に話せる者はほとんどいない。彼ならば、きっと何でも話すことができるし、積もり積もった愚痴を聞いてもらえるような気がする。

 だが、貴族のご子息が貴族のご息女を招いたとなれば、アナスタシアにはわからない様々なしきたりがあるに違いない。まずは母に相談すると、いきなり断るように言われてしまった。
「本来であれば、拝謁できるような身分ではないのだし、お断りしなさい。」
「でも私、彼とは以前から知り合いなの。お父様の亡くなった日に会ってるのよ。」
「そうだとしても、気まぐれに弄ばれて傷つくのはあなたです。やめておきなさい。」
「でも。」
「正直にいうとね、アナスタシア。・・・・」

 その時初めて、アナスタシアはトレメイン伯爵家が借金で破産寸前であることを知った。招かれたとなれば、それなりの服を着て、手土産を用意し、送迎に馬車を仕立てなければならない。養女にもらった庶民の子の気晴らしのために、それらを用意するだけの余裕は、今のトレメイン家にはないのだと、母は言った。母がトレメイン伯と毎日のように出かけて行くのは、借金を返済するための財産の整理について話し合っていたのだ。

「君、アナスタシアにだって気晴らしが必要だろう。毎日、勉強することばかりだし、家事までさせているのだから。それに、金の話を子供にするなんて。」
「あなたこそ。誰のせいでアナスタシアが家事まですることになっているのですか?」

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