アナスタシア シンデレラ外伝

「ちょっと、みんな落ち着いてよ。」
アナスタシアの隣にいた少年が止めに入った。
「ですが、ぼっちゃん。」
「そんなことアーベルに言ったって、アーベルが困っちゃうだけだよ。」
「だったらどうしたら。。」
「そんなの、子供の僕に聞かないでよ。あんたたちの市場でしょ。」
あっという間に少年は大人達を黙らせてしまった。そして、アナスタシアとアーベルと呼ばれた憲兵に「行こう」と言って歩き出した。

市場を離れ、父の店の裏手まで来ると、アナスタシアの足が止まった。
「どうしたの?」
少年が訊ねると、アナスタシアは顔を引きつらせて笑った。
「わかんない。」
「誰か呼んでこようか?あのドアだろ?」
「大丈夫。もうここでいいよ。」

 母親や姉、何より父に余計な心配をかけたくない。だが、いつも通り陽気に振る舞える自信も無い。路地の入り口で立ちつくしていると、少年もそのまま無言でしばらく立っていた。少年はやがて少女の事情を察したのか、彼女の手を引いてもと来た道を歩き出した。憲兵は仕事に戻ると言って去っていった。

 少年は店じまいをしている市の間を抜けて水路に降りると、靴を脱いで水に入り、彼女の方に笑いかけた。
「君もおいでよ。気持ちいいよ。」
 あまり気が乗らなかったけれど、他にどうすればいいのか分からなかったので、アナスタシアは言われた通りにした。
 春の水はとても冷たくて、思わず「冷たい。」と悲鳴をあげると、少年が笑った。少しだけ気が紛れた気がした。

< 7 / 22 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop