アナスタシア シンデレラ外伝

「アナスタシア」
名を呼ばれて視線をむけると、少年は水辺に咲いた白い花を摘んできて、彼女に差し出した。
「って言うんだろ。」
「うん。」
「僕はフレデリク。」
彼はアナスタシアの顔をまっすぐ見て、少し胸を反らした。
「。。。。」
アナスタシアはどう答えたら良いのか分からず戸惑っていると、少年は少し不服そうな顔をした。
「そんな、どうでも良さそうな顔しないでよ。」
「ごめん。」
「困った事があったら、僕に相談してみて。何かできるかもしれないから。」

 アナスタシアは初対面のこの少年がどうしてそんな事を言うのか分からず、ただ困ったように笑った。そして、今日この少年が自分を助けてくれたのだと思い出し、「ありがとう」と礼を言い、白い花を受け取った。

 フレデリクはアナスタシアがあまり嬉しそうでもないのを不満に思ったけれど、この子は自分と初対面で、今しがた襲われたばかりなのだと思い出し、軽いため息をついて「ま、しょうがないか。」と独り言をつぶやいた。

「ねぇ、アナスタシア。君さえ良ければ、僕は君を、もう少し、、」
少年が何か言いかけたとき、遠くで名を呼ばれたような気がして、アナスタシアは顔をあげた。なんとなく街道が騒がしい。フレデリクも目を上げて市が片付いた道にある人だかりに目をやった。
「アナスタシア!」食堂のおばさんが彼女の名を呼んでいる。
「はい!」アナスタシアは大きな声で返事をした。
「あがってきて、早く!」
何事かと思いながらフレデリクを見ると、彼も首を傾げている。あわてて靴を履き、水路の土手の階段をあがりながら、アナスタシアはその知らせを聞いた。
「あんたのお父さんが。。」

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