【医者恋シリーズ2】 冷徹ドクターのイジワルな庇護愛
その日の晩。
私は一人、部屋のベッドの前に膝を抱えて座り込んでいた。
夕方から外出した先生とは、夕食も別。病院を閉めてから顔を合わせていない。
冷静になって考えてみると、大人として社会人として、とんでもないことをやらかしてしまった。
言ったことに間違いはないし、なんの後悔もない。
だけど、六渡寺さんは一応この病院に通っていた人だ。
そんな人を相手に、あんな態度を取ってしまったのだ。
そのせいで、病院の売上げにでも影響でもしてきたら……。
口コミで変な評判が流れて、通ってくれていた人たちがかかりつけ医を変えてしまったりしたら……。
「ハァ……」
もっと冷静になるべきだった。
でもあの瞬間、気持ちを抑えることがどうしてもできなかった。
許せないという思いが一番強かった。
だけど、もう二度とそんなことをしないでほしいと、少しでもその訴えが伝わってほしいという気持ちもあった。
病院のお手伝いでいる人間が、病院に迷惑かけてしまった。
きっと先生も、あの場では同調してくれたけれど、いきなりキレた私に呆れかえっているに違いない。
膝を抱えていた手を解いて、ゆっくりと立ち上がる。
クローゼットを開け、ここ来た時以来触っていなかったボストンバッグを取り出した。
ベッドの上に広げたボストンバッグの横に、じゃこがやってくる。
何食わぬ顔で中へと入った。
「じゃこ……あんたは私が抱っこして帰るから、この中には入んないの」
動く気配のないじゃこを仕方なく抱き上げた時、ドアをノックする音と共に「ひまり、いるか?」と辻先生の声が聞こえた。