【医者恋シリーズ2】 冷徹ドクターのイジワルな庇護愛
憤りと悲しい現実
夏も本番の八月に入り、世間はもうすぐお盆入り。
今朝もお手伝いの散歩をこなし、その後すぐに職場へと出勤。
町医者と違い夏季休暇のない大学病院は、今日も相変わらず活気付いている。
「ひまりちゃん、おーい、ひまりちゃん!」
「あっ、はっ、はい!」
「トマト、載せすぎ! ひと皿に二つまでだからね!」
掛けられた声にハッと手元を見ると、セットのサラダの盛り付けが破茶滅茶になっていた。
キャベツの千切りとレタスに載せるミニトマトは二つと決まっているのに、作っている皿にはトマトが五個も載っている。
「すっ、すみません!」
慌てて載せすぎのトマトを回収しながら、マスクの中でため息を吐き出す。
少し気を抜くとぐるぐる色々なことを考えてしまって、ここのところ今のようによく声を掛けられてしまう。
その度に気を引き締めなくちゃと心に誓うのだけれど、どうしてもついぼんやりとしてしまうのだ。
辻先生と行った朝の散歩のドッグランで起きた、あの出来事……。
あの日から、私は完全におかしくなってしまっている。