【医者恋シリーズ2】 冷徹ドクターのイジワルな庇護愛
え……。
「頑張れよ」と笑みを置いて、辻先生はムロくんを追って去っていく。
先生の無造作にセットされた綺麗な髪を見つめ、時間が止まってしまったように静止していた。
鼓動の音が全身を包み込み、外に聞こえているかの錯覚を起こす。
私ばっかりこんな風に意識して緊張して、先生は普段となんら変わらない。
それはきっと、私に対してなんの感情もないからだ。
なんとも思わないから近付けるし、簡単に触れられる。
そう答えが出ると、悔しいようなもどかしいような、なんとも複雑な感情が胸を覆い尽くした。
そしてぼんやりと、自分がどうしてこんな風なことに思いを巡らせているのか考える。
そして、ハッと気付いてしまった。
そばで先生を見ていて、接してきて、いつのまにか意識している自分。
早鐘を打つ鼓動が何よりもそれを証明している。
「ひまりちゃーん! サラダ、まだ作れそう?」
奥から一緒に働くパートさんから声がかかり、ハッとして振り返る。
即座に残る材料をチェックし、「まだいけまーす!」と返事をした。