あなたへ


「すみませ〜ん」


女子特有の高い声が聞こえる。


「もしかして…、歌い手の方達ですかぁ?」


どうやらファンの人らしい。


「えっと…まぁ、そうですね」


美結の推し、しーくんこと白い生地さんが、営業スマイルであろう声のトーンで答える。


「本当ですかぁ!?わぁすごい!実は私たちファンなんですよぉ」

「そうなんですか?ありがとうございます」

「あのぉ、良かったら握手してくれませんか〜?」

「俺なんかで良いんですか?」


言葉は下からだが、少し嫌そうな声。


そんな事など察していないのか、わざと気付かないふりをしているのか、女性達は構わず握手を求める。


チラッと様子を見てみると、白い生地さんが引きつったような顔で笑っている。


ふとんくんはと言うと、女性達と視線を合わせず窓の方を見ている。


「あのぉ…もしかして…ご一緒に居るのってふぅくんですか?」


もう1人の女性がふとんくんに話しかける


話しかけられて渋々顔を合わせるふとんくん。


そして、精一杯のファンサービスなのか、ニコッと笑う。


「やっぱり…!私ふぅくんの大ファンなんです…!この前のライブなんて…」


等と語り出す。


こういうファンもいるんだな…。


少しだけ気分が下がる。


なんとかしなきゃと思うけれど、何も出来ない。


「あの…」


ふとんくんが口を開く。


「はい、!」


女性が嬉しそうに返事をする。


「あんまりこういう事は言いたくないんですけど…こういう場所で騒がれるのはちょっと……」


本当に言うのが嫌なのか苦しそうな声で話し出す。


あんまり聞きたくない声だ。


そう思っていたら、勝手に体が動いていた。
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