あなたへ
お客様はどうやら貞子だと認識してくれたらしい。
「ご注文は……」
髪の隙間からお客様を見る。
なるべく真顔で、怖そうに…。
「えっとじゃあ…、これと…」
メニューを指差しながらお客様が注文する。
正直、髪の隙間から見える範囲は狭い。
料理名言ってくれると助かるんだけど…
と思いながらも、頑張ってメニューと手元のオーダー票を照らし合わせ、注文を確認する。
「以上でよろしいですか…?」
「はい」
「大丈夫でーす」
ペコリと浅くお辞儀をして、そのまま立ち去ろうとする。
…おっと、忘れてた。
私はグリンと勢いよく振り返ると1歩大きく足を踏み出し、わざとフラフラした様子でお客様のテーブルへ戻った。
「「うおぉ!?」」
丁度いい具合にバランスを崩し、バンっと机に手を置き
「ごゆっくりどうぞ……」
と一言残して、そのまま静かにテーブルを後にした。
「怖ぇだろ…あの貞子…」
「演出のクオリティ高すぎ…」
背後から聞こえるその声に、してやったり、と思いながら厨房に注文を通す。
演劇部に入っているクラスメイト直伝。
怖い雰囲気の出し方!講座
を受けて良かったと思えた。