女探偵アマネの事件簿(上)
ウサギのぬいぐるみ
暗い、辺り一面が闇に覆われている。瞬きをしても、見えてくるものは何もない。
『所詮女など、余計な知恵をつけるだけ無駄だ』
懐かしい、思い出したくもない声が聞こえる。少し掠れた低い男の声だ。
『何で、貴女は女に生まれたの?男だったらどんなに良かったか!』
男の声が途絶えたかと思ったら、今度は高い、耳に痛く響く女の声が聞こえる。
『姉上は可哀想ですね。優秀なのに』
今度は冷たさを含んだ、幼い子供の声が聞こえた。
『男の方が偉いのに、女の姉上が優秀でも意味がないのに。どうして、男の僕は姉上より上にいけないんですか?』
再び聞こえた声に、あてもなく手を伸ばす。
『姉上なんて、いらない』
その言葉と共に、暗闇の中から何かが浮かび上がってきた。
『……』
少しだけ背の高くなった、焦げ茶色の髪の子供が、冷たい目で自分を見下ろしている姿に、息苦しさを感じる。
「……やめて、ください」
捨て去った記憶が、今も彼女を責め続ける。
『『お前なんて、いらない!!』』
不協和音のような声が響いた途端、耐えられなくなって膝をつく。いつの間にか、自分の姿が見えるようになり、急いで耳をふさいだ。
世界が歪んで見える。自分が生きてきた、生まれ落ちた場所が、今も閉じ込めようと狙ってくる。
(やめて、やめてください!私は―)
「………ネ」
温かい光が、世界にヒビを入れる。
「……マネ」
この声を、誰よりも知っている。明るくて優しくて、でも時々デリカシーに欠ける人。だが、誰よりも信じることを恐れていない、心の強い人。
その声の主に気付いた途端、世界が壊れ光が弾けた。
「アマネ!!」
「!!…………おはようございます」
必死な顔で、アマネの肩を揺さぶっていたウィルに、アマネは何時もの淡々とした声で返す。
「おはようじゃねーよ、もう昼だ」
「ああ。そんなに寝てましたか」
アマネは起き上がると、自分の上に掛けられていたらしい上着を手に取る。どうやら、ウィルが掛けてくれたらしい。
「掛けてくれたんですね」
「風邪引いたら大変だからな。ゴリラでも」
そう言ってうんうんと頷いているウィルの額に、何やら冷たくて固いものが当たる。
もうお決まりとなりうるパターンだろう。ウィルは背中に冷たい汗が伝うのを感じながら、やっちまったなという顔をした。
「お気遣いありがとうございます。それではさようなら」
「待ってぇぇぇぇ!今のはちょっと心の中で思ってたことが出ちゃっただけで、悪気はねーから!」
「なるほど。常に心の中で私のことをそう呼んでいると」
カチャリという、金属が回転する音が聞こえた。
「いや、その………で、でもさ。ゴリラって結構頭いいし、強いから気にしなくても良いと思うぞ!」
「……『私は一応女ですので、流石にゴリラ呼ばわりは不快です』ウィル」
風船が弾けるような音が、部屋の中に響いていた。
『所詮女など、余計な知恵をつけるだけ無駄だ』
懐かしい、思い出したくもない声が聞こえる。少し掠れた低い男の声だ。
『何で、貴女は女に生まれたの?男だったらどんなに良かったか!』
男の声が途絶えたかと思ったら、今度は高い、耳に痛く響く女の声が聞こえる。
『姉上は可哀想ですね。優秀なのに』
今度は冷たさを含んだ、幼い子供の声が聞こえた。
『男の方が偉いのに、女の姉上が優秀でも意味がないのに。どうして、男の僕は姉上より上にいけないんですか?』
再び聞こえた声に、あてもなく手を伸ばす。
『姉上なんて、いらない』
その言葉と共に、暗闇の中から何かが浮かび上がってきた。
『……』
少しだけ背の高くなった、焦げ茶色の髪の子供が、冷たい目で自分を見下ろしている姿に、息苦しさを感じる。
「……やめて、ください」
捨て去った記憶が、今も彼女を責め続ける。
『『お前なんて、いらない!!』』
不協和音のような声が響いた途端、耐えられなくなって膝をつく。いつの間にか、自分の姿が見えるようになり、急いで耳をふさいだ。
世界が歪んで見える。自分が生きてきた、生まれ落ちた場所が、今も閉じ込めようと狙ってくる。
(やめて、やめてください!私は―)
「………ネ」
温かい光が、世界にヒビを入れる。
「……マネ」
この声を、誰よりも知っている。明るくて優しくて、でも時々デリカシーに欠ける人。だが、誰よりも信じることを恐れていない、心の強い人。
その声の主に気付いた途端、世界が壊れ光が弾けた。
「アマネ!!」
「!!…………おはようございます」
必死な顔で、アマネの肩を揺さぶっていたウィルに、アマネは何時もの淡々とした声で返す。
「おはようじゃねーよ、もう昼だ」
「ああ。そんなに寝てましたか」
アマネは起き上がると、自分の上に掛けられていたらしい上着を手に取る。どうやら、ウィルが掛けてくれたらしい。
「掛けてくれたんですね」
「風邪引いたら大変だからな。ゴリラでも」
そう言ってうんうんと頷いているウィルの額に、何やら冷たくて固いものが当たる。
もうお決まりとなりうるパターンだろう。ウィルは背中に冷たい汗が伝うのを感じながら、やっちまったなという顔をした。
「お気遣いありがとうございます。それではさようなら」
「待ってぇぇぇぇ!今のはちょっと心の中で思ってたことが出ちゃっただけで、悪気はねーから!」
「なるほど。常に心の中で私のことをそう呼んでいると」
カチャリという、金属が回転する音が聞こえた。
「いや、その………で、でもさ。ゴリラって結構頭いいし、強いから気にしなくても良いと思うぞ!」
「……『私は一応女ですので、流石にゴリラ呼ばわりは不快です』ウィル」
風船が弾けるような音が、部屋の中に響いていた。