女探偵アマネの事件簿(上)
自覚と約束
子供の子守りをしていたウィルは、子供の父親が、思ったよりも早く帰って来れたので、ウィルにもう帰って良いと言った。

勿論、報酬は半分だけ貰って。時間きっちりではないので、最初の時と同じ金額を要求するのはウィルの良心が痛む。

アマネがいつも行く場所を回っていた時、橋が見えた。ちょっと川でも眺めようかなというノリで下を覗くと、見慣れた友人と相棒が抱き合っていた。

暫く見て、アマネの方から離れたのは分かったが、ウィルは頭が混乱していた。

友人と相棒がそんな関係だとは思わなかったのだ(誤解なのだが)。

あの後、ジルが実は黒の貴公子と教えられ、もっと詳しい話を聞こうと探偵事務所に戻った。

因みに、アマネはご飯を食べ損ねたらしい。なので、材料を買って、ウィルがご飯を作ろうとした。が、今何故か、ウィルは椅子に座っている。

(今日は私が作りますって……大丈夫だよな?)

一応確認のため、本人には普通に作るかどうか聞いたら、ちゃんと作ると言っていたので大丈夫だとは思うが。

(いやでも、俺あいつ怒らすようなことしてないよな?)

むしろ、怒りたいのはこっちだ。

何しろ、自分に黙って黒の貴公子に会いに行ったあげく、抱き締められていたのだから。

(大体、アマネは警戒心薄いんだよ!)

その時の光景を思い出すと、非常に不愉快だった。ジルだと思っていた時でさえモヤっとしたのに、黒の貴公子と分かって余計にモヤモヤした。

というか、イライラしている。現在進行形で。

(くそっ。別に恋愛はアマネの自由だし、それを止める権利は俺にはねぇ。けどな、あいつは駄目だろ)

怪盗と言うのは、嘘がもっとも得意な人種だろう。そうでなければ怪盗など勤まらない。

けれども、賢いアマネがそう簡単に彼に騙されるとは思えない。複雑だが、ウィルよりも人への警戒心は強いし、相手を良く見ている。

騙されるとしたら、完全にウィルの方だった。

「ウィル?」

「………」

用意したローストビーフと、レタスとチキンのサンドイッチ、コールスローを机の上に並べ、アマネはウィルに声をかける。

(………何を考えているのか、大体分かりますが)

恐らく、自分とフランツとのやり取りだろうとは思う。彼はアマネとウィルにとっては敵であり、ウィルを裏切った人間なのだ。

実際は、ウィルは裏切られていたことよりも、フランツがアマネを抱き締めていたことが気になっているのだが。

アマネはウィルの気持ちになど気付いていない。フランツみたいに正面切ってハッキリ言われないと分からないほど、彼女は自分に向けられる感情に無関心だった。

無関心にならざる終えなかった。

「ウィル。冷めますよ」

「……うわぁ!」

頬にお馴染みの物が押し付けられ、ウィルは悲鳴に近い声を上げ、椅子から転げ落ちる。

「な、ななっ。何してんのぉぉぉぉ?!何で拳銃俺の頬に押し付けたんだよ!!心臓止まるぞ!探偵が殺人事件起こす気か!?」

「すみません。あまりに反応が無かったのでつい。後、殺人事件を起こす気なら、もうちょっと上手くやりますよ」

「怖いんですけどー!?お巡りさーん!ここに動物園から脱走したゴリラがいま―ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

リビングに響いたウィルの断末魔。彼が一体どんな制裁を下されたのかは、神の溝知るとこである。


「ほんと………ほんとすみませんでした!!」

あの後思ったよりも美味しかった彼女の食事を頂き、一言も返事を返してもらえないので、ウィルは前にアマネから教わった土下座をして謝る。

「………もういいです。コーヒー追加で」

どうやら許してくれたらしく、アマネは返事を返した。

「はいはい」

追加のコーヒーを淹れ、ウィルは話の続きを聞こうと座り直す。
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