女探偵アマネの事件簿(上)
「黒の貴公子と、どんな話してたんだ?」
「彼の昔話と、私の心を盗むという宣言話ですね」
淡々と答えたアマネに、ウィルは訝しげな視線を向ける。
「お前の心って……」
正直、意味は聞かなくても分かっていた。
「言葉通りですよ。彼は私に愛情を求めてるんです。昔得られなかったものの代わりに」
「……得られなかったもの?それって何だ?」
「他人の昔話を、いくら相棒の君でも話すわけにはいきません。今度彼にであったら、君の口から聞いてください。……それよりも、ウィルはショックだったんじゃないですか?」
アマネの少し気を遣ったような声に、ウィルは首を傾げる。
「……えーっと。お前があいつに抱き締められてたことがか?」
「いえ、ジルは君にとっては友人だったでしょう?」
ウィルの言葉の意味を深く考えず、アマネは首を振る。
「………確かに、ちょっと嫌だったけど。でもさ、最終的に相手を信じることを決めたのは自分だ。だから、裏切られたとは思ってない。嘘をつかれても、それを信じるかどうか決めるのは、結局自分だ。それに、自分で決めたことなら、自分の責任ですむだろ」
黒の貴公子がウィルに近付いたのは、アマネのことやウィルのことを探るためだったのだろう。
友達だと思っていたので、確かにそれなりにショックだったのは事実だ。だが、それ以上にショックなことがあったせいか、ウィルはそこまで気にしていなかった。
「……お前は、あいつのこと、どう思ってんだ?」
聞きたくないと思いながらも、ウィルは口が滑ったように尋ねていた。
「そうですね………どうしようもない我が儘な子供。そして、私という人間を肯定した変わり者と思ってます」
「変わり者のお前に変わり者呼ばわりされるのは、複雑だと思うぞ」
そう苦笑いしながら言って、ふとアマネの言葉に引っ掛かった。
―私という人間を肯定した―
この部分が、ウィルは気になった。まるで、自分は肯定されてはいけない、否定されてなくてはいけない。そう言ってるように感じた。
「アマネを肯定した変わり者って、どう言う意味だ?」
「……私の過去を、彼は知っているんですよ」
「お前の過去って」
まだ、ウィルはアマネの過去を聞いたことがない。自分の過去は、アマネの助手になる時に話したが。
(俺が知らないお前を………あいつは、知ってる)
何故か、酷く悔しかった。少なくとも、彼女の過去に触れられなくても、アマネのことを今誰よりも知っているのは、自分だと思っていた。
けれども、それは自惚れに過ぎなかった。
「お前の過去……聞かせてくれよ」
たまらずそう言っていた。
「……すみません。今はまだ言えません」
どうしてと、ウィルはアマネを責めたくなった。けれども、アマネを責める言葉など出てこなかった。
彼女の顔が、どこか怯えているように見えたのだ。
(……馬鹿だな。アマネは話していいと思ったことは、どんなことでも勝手にペラペラ話す。それに、俺はアマネを信じてる。俺はアマネが話すのを待てば良い)
今はまだと彼女は言った。つまり、いつかは話すということだ。
「分かった。今は聞かねーよ」
「すみません。ウィル」
「謝らなくて良い」
ウィルは笑って見せた。そして、一つ決めた。
「彼の昔話と、私の心を盗むという宣言話ですね」
淡々と答えたアマネに、ウィルは訝しげな視線を向ける。
「お前の心って……」
正直、意味は聞かなくても分かっていた。
「言葉通りですよ。彼は私に愛情を求めてるんです。昔得られなかったものの代わりに」
「……得られなかったもの?それって何だ?」
「他人の昔話を、いくら相棒の君でも話すわけにはいきません。今度彼にであったら、君の口から聞いてください。……それよりも、ウィルはショックだったんじゃないですか?」
アマネの少し気を遣ったような声に、ウィルは首を傾げる。
「……えーっと。お前があいつに抱き締められてたことがか?」
「いえ、ジルは君にとっては友人だったでしょう?」
ウィルの言葉の意味を深く考えず、アマネは首を振る。
「………確かに、ちょっと嫌だったけど。でもさ、最終的に相手を信じることを決めたのは自分だ。だから、裏切られたとは思ってない。嘘をつかれても、それを信じるかどうか決めるのは、結局自分だ。それに、自分で決めたことなら、自分の責任ですむだろ」
黒の貴公子がウィルに近付いたのは、アマネのことやウィルのことを探るためだったのだろう。
友達だと思っていたので、確かにそれなりにショックだったのは事実だ。だが、それ以上にショックなことがあったせいか、ウィルはそこまで気にしていなかった。
「……お前は、あいつのこと、どう思ってんだ?」
聞きたくないと思いながらも、ウィルは口が滑ったように尋ねていた。
「そうですね………どうしようもない我が儘な子供。そして、私という人間を肯定した変わり者と思ってます」
「変わり者のお前に変わり者呼ばわりされるのは、複雑だと思うぞ」
そう苦笑いしながら言って、ふとアマネの言葉に引っ掛かった。
―私という人間を肯定した―
この部分が、ウィルは気になった。まるで、自分は肯定されてはいけない、否定されてなくてはいけない。そう言ってるように感じた。
「アマネを肯定した変わり者って、どう言う意味だ?」
「……私の過去を、彼は知っているんですよ」
「お前の過去って」
まだ、ウィルはアマネの過去を聞いたことがない。自分の過去は、アマネの助手になる時に話したが。
(俺が知らないお前を………あいつは、知ってる)
何故か、酷く悔しかった。少なくとも、彼女の過去に触れられなくても、アマネのことを今誰よりも知っているのは、自分だと思っていた。
けれども、それは自惚れに過ぎなかった。
「お前の過去……聞かせてくれよ」
たまらずそう言っていた。
「……すみません。今はまだ言えません」
どうしてと、ウィルはアマネを責めたくなった。けれども、アマネを責める言葉など出てこなかった。
彼女の顔が、どこか怯えているように見えたのだ。
(……馬鹿だな。アマネは話していいと思ったことは、どんなことでも勝手にペラペラ話す。それに、俺はアマネを信じてる。俺はアマネが話すのを待てば良い)
今はまだと彼女は言った。つまり、いつかは話すということだ。
「分かった。今は聞かねーよ」
「すみません。ウィル」
「謝らなくて良い」
ウィルは笑って見せた。そして、一つ決めた。