女探偵アマネの事件簿(上)
アマネがバジル伯爵の元へ行ってる間、ウィルはバルコニーで、風に当たっていた。
声をかけてくる者はいないが、やはりこそこそと陰口を言われるのは気分が悪い。原因はアマネにあるが。
「オルヴワル、マドモアゼル(ご機嫌よう、お嬢さん)?」
「……へ?」
まさか話し掛けてくる人間がいるとは思わなかったので、間の抜けた声でウィルは振り返った。
そこには、見覚えのある男性が立っていた。ウィルと違い女装が似合いそうな、中性的な顔立ちの元友人。
「……ジル……?」
「おっと。まだその名で呼んでくれるのかい?」
クスクスと彼は笑う。対するウィルはムッと顔をしかめた。
「後は黒の貴公子という名前しか知らねーよ」
「……フランツ。フランツ・バルレット。これが僕の本当の名前。君は彼女の助手であり、僕の元友人だから、特別にフランツって呼んでいいよ?」
「……フランツが、何の用だよ?」
一瞬、誰が呼ぶものかと思ったが、ウィルはフランツの名前を呼んだ。今目の前にいるのは、黒の貴公子でもない、友人でもない。
だから、フランツと呼ぶ以外ない。
「君にちょっと、確認したいことがあってね。後聞きたいことも」
訝しげな視線を向けるウィルに、フランツは小さく笑う。
「君は僕と彼女の勝負の内容を知ってるかい?」
「……」
無言で頷くウィルに満足したように、フランツは笑みを深める。そして、ウィルの隣に並んだ。
(こいつ、このまま落ちねーかな)
落ちたところで、彼なら無傷で着地してしまえるだろう。本当なら探偵の助手として、フランツをすぐに捕まえるべきだとは思う。
だが、今の自分の服装では満足に動けず、不利だった。
「僕が彼女の心を盗めるか、それとも彼女に逃げ切られるか。……この勝負に、君も参加するかい?」
「……しねぇよ」
「おや?何故?……君は彼女のことが好きなんだろう?もう自覚してる筈だと思うけど」
肩をすくめるフランツに、ウィルはジルの影を重ねた。やはり同じ人間だからか、癖も全く変わらない。
「……俺は、お前みたいにあいつを手に入れたいとは思えない。俺は、あいつには幸せになってほしいし」
手すりに背中を預け、ウィルはフランツをジッと見る。
「アマネとお前が始めた勝負だ。俺は途中から割り込む真似はしない。その代わり、必要ならアマネの方を全力でサポートするけどな」
あくまでアマネの味方。アマネの考えを、気持ちを優先すると、ウィルは言っているのだ。
「……愛は、惜しみ無く奪うものだよ。他の誰かがそのせいで傷付いても。でもね、奪うだけの僕にも、美学というものはある。……僕は約束は破らない。特に、女性との約束はね」
「……」
フランツの言葉に返事を返さず、ウィルは俯く。
(アマネが、こいつの過去はこいつに聞けと言ってたな。……確かに気にはなる)
愛情に執着しているフランツ。その過去を知ることに、果たして意味はあるのだろうか?
けれども、ウィルは知りたいと思う。何故なら、元でもウィルにとっては友人だからだ。
(……甘いよな。俺)
自分に自分で呆れてから、ウィルはフランツを見る。
「フランツ。お前の質問に答えたんだから、俺の質問にも答えろ」
声をかけてくる者はいないが、やはりこそこそと陰口を言われるのは気分が悪い。原因はアマネにあるが。
「オルヴワル、マドモアゼル(ご機嫌よう、お嬢さん)?」
「……へ?」
まさか話し掛けてくる人間がいるとは思わなかったので、間の抜けた声でウィルは振り返った。
そこには、見覚えのある男性が立っていた。ウィルと違い女装が似合いそうな、中性的な顔立ちの元友人。
「……ジル……?」
「おっと。まだその名で呼んでくれるのかい?」
クスクスと彼は笑う。対するウィルはムッと顔をしかめた。
「後は黒の貴公子という名前しか知らねーよ」
「……フランツ。フランツ・バルレット。これが僕の本当の名前。君は彼女の助手であり、僕の元友人だから、特別にフランツって呼んでいいよ?」
「……フランツが、何の用だよ?」
一瞬、誰が呼ぶものかと思ったが、ウィルはフランツの名前を呼んだ。今目の前にいるのは、黒の貴公子でもない、友人でもない。
だから、フランツと呼ぶ以外ない。
「君にちょっと、確認したいことがあってね。後聞きたいことも」
訝しげな視線を向けるウィルに、フランツは小さく笑う。
「君は僕と彼女の勝負の内容を知ってるかい?」
「……」
無言で頷くウィルに満足したように、フランツは笑みを深める。そして、ウィルの隣に並んだ。
(こいつ、このまま落ちねーかな)
落ちたところで、彼なら無傷で着地してしまえるだろう。本当なら探偵の助手として、フランツをすぐに捕まえるべきだとは思う。
だが、今の自分の服装では満足に動けず、不利だった。
「僕が彼女の心を盗めるか、それとも彼女に逃げ切られるか。……この勝負に、君も参加するかい?」
「……しねぇよ」
「おや?何故?……君は彼女のことが好きなんだろう?もう自覚してる筈だと思うけど」
肩をすくめるフランツに、ウィルはジルの影を重ねた。やはり同じ人間だからか、癖も全く変わらない。
「……俺は、お前みたいにあいつを手に入れたいとは思えない。俺は、あいつには幸せになってほしいし」
手すりに背中を預け、ウィルはフランツをジッと見る。
「アマネとお前が始めた勝負だ。俺は途中から割り込む真似はしない。その代わり、必要ならアマネの方を全力でサポートするけどな」
あくまでアマネの味方。アマネの考えを、気持ちを優先すると、ウィルは言っているのだ。
「……愛は、惜しみ無く奪うものだよ。他の誰かがそのせいで傷付いても。でもね、奪うだけの僕にも、美学というものはある。……僕は約束は破らない。特に、女性との約束はね」
「……」
フランツの言葉に返事を返さず、ウィルは俯く。
(アマネが、こいつの過去はこいつに聞けと言ってたな。……確かに気にはなる)
愛情に執着しているフランツ。その過去を知ることに、果たして意味はあるのだろうか?
けれども、ウィルは知りたいと思う。何故なら、元でもウィルにとっては友人だからだ。
(……甘いよな。俺)
自分に自分で呆れてから、ウィルはフランツを見る。
「フランツ。お前の質問に答えたんだから、俺の質問にも答えろ」