女探偵アマネの事件簿(上)
「まだ僕の質問は終わってないよ?君に聞きたいことがあるって言っただろう?」

「……何が聞きたいんだ?」

「君と彼女の出会いの話と、出会った後の話。僕の知らない彼女を、君は知ってると思って。ああ、君にばかり情報を聞き出すのが不満なら、僕が知っているの彼女の過去を、少しだけ教えてあげようか?」

フランツのどこか試すような言い方に、ウィルは思いっきり不機嫌な顔をさらした。

化粧のせいか、色んな意味で迫力がある。

「やっぱお前の過去どうでもいい。それに、俺とアマネの思い出話しはお前には絶っっっっっ対教えねぇから!!後、アマネの過去はアマネの口から聞くんだよ。勝手に喋ったら吊るすぞ!」

ウィルの半ば怒鳴るような声に、フランツは何故か可笑しそうに笑った。

「だろうね。君ならそう言うと思った。……クスクス。それにしても、君の女装の似合わなさと言ったら……ぷっ、ククッ」

喉の奥で必死に笑いを堪えているフランツに、ウィルは苛立ちを隠せない。

「……いいよ。僕の過去を知ってどうするか知らないけど、僕は君の過去も知ってるからね。……教えてあげるよ」

「………」


「お待たせしました……ウィル?」

人目を避けるためにバルコニーに向かったと推理したアマネは、どこか複雑な顔で考え込んでいるウィルを見つけた。

「どうかしましたか?」

「……ちょっとな」

言葉を濁したウィルに、アマネはそれ以上聞かなかった。

フランツが去る時、ウィルに言った言葉が頭の中をぐるぐる回る。

―僕と君と彼女には、共通点がある―

それは何だと聞くことはしなかった。どんな言葉も、アマネの過去に繋がってしまう気がしたから。

「……アマネ」

「はい」

「……腰痛い、ヒール高い、帰りてぇ」

「………はぁ」

何と返事すべきか悩んだが、ウィルの額からは汗が流れている。

恐らく限界がきたのだろう。

「……帰りますか?」

「………」

アマネの声に、ウィルは無言で頷いた。
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