女探偵アマネの事件簿(上)
頭脳明晰だが変わり者。おまけに探偵で服装も白のシャツに茶色のジャケット。襟に結んでいるスカーフでさえ茶色だ。しまいには左の耳に銀色のピアスをしており、女らしさが皆無でウィルは勿体無いと思う。

(ちゃんとした格好してれば、それなりに綺麗だと思うけどな)

彼女の顔は上の下といったところだろう。だが、本人は容姿にあまり興味がないらしい。

(人間なんて所詮皮を剥げば人体模型ですよ。なんて言いやがったしな)

おまけに彼女はこの国の人間ではなく、海の向こうの人間だ。美的感覚は違うだろう。

それにしてもと、ウィルはアマネのコーヒーをさりげなく取り上げながら考える。

自分は何故彼女の世話をやいているのだろうか?

(てか、別に助手になる予定もなかった筈なんだよな)

やりたいことがなく、何でもやったが何にも楽しくなかった。家事は嫌いではないが好きでもない。

でも、自分がやらなくてはと思ったからやっているだけだ。

なんせ彼女は、一度事件に没頭すると寝食を忘れて物思いにふける。放っておくと餓死するかも知れず気が気じゃない。

最初にウィルがここに来た時、探偵の部屋というのは、ごちゃごちゃと汚れているというイメージがあった。

だが、アマネに必要な情報は全部頭の中にあるので、わざわざ資料を引っ張り出して場を散らかす必要がないのだ。

事件が解決すると、溜めていた洗濯物や洗い物を一気に片付けていたとウィルはアマネから聞いた。

因みに料理も自分でしていたらしく、ウィルは一度だけご馳走になった。が、うっかりあの世に片足突っ込みかけた。

別にアマネは料理が下手な訳ではない。普通に本どおりに作ればまともなのだ。だが、彼女は退屈を紛らわすために、料理に色々なものを混ぜていく。

健康に良さそうなものや、その逆になりそうなものを一緒に混ぜて効果を試すのだ。

薬に手を出さないだけマシだが、彼女は平気で混ぜるな危険のものを混ぜる。

しかも、わざとなのでたちが悪い。

それ以来、ウィルはここの家事全般を引き受けることにしたのだ。身の安全のために。

(それにしても、冷静沈着で常に敬語。同じ歳とは思えないな。でもゴリラっていうとすぐ拳銃出すよな)

アマネは大抵の暴言には興味を示さず、流すことが多いが、「ゴリラ」と呼ばれることは心底嫌らしい。

アマネがゴリラ呼びされる理由は、おいおい見ていけば分かるだろう。

(ま、ゴリラって言うのは俺くらいだろうけど)

「………」

何故か再び銃口が向けられた。

「って、何でまた拳銃だしてんの?!」

読心術も使えるのだろうかと、ウィルは冷たい汗が流れるのを感じた。
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