女探偵アマネの事件簿(上)
「ちょ!何でまた拳銃出してんだよ?!」

「すみません。何やら不快なことを言われた気がしましたので」

拳銃をウィルの額に向けながらも、アマネは本をめくる速度を緩めない。

先ほどコーヒーを取り上げたので、彼女は右手で拳銃を握っているが、本来は左利きだ。

打ったとしても当たらないだろう……何て思った人は即刻あの世行きだ。

右手で打っても狙いを定めにくい。が、逆に言えばどこに撃たれるのか分かりにくいのだ。

そのため、下手に動くと命取りになる。

「いや、ホントさ。うら若き乙女が拳銃構えて本を速読してる光景なんて、想像できる人いないぜ?てか止めて?」

「…………仕方ないですね。ではコーヒー追加で」

軽くため息を吐くと、アマネはコーヒーカップを指差す。

「だから飲みすぎだろ!お前な、コーヒーの飲みすぎで死んだらどうするんだ?!探偵の死因がカフェイン多量摂取とか笑えないぞ!」

「……はぁ」

ウィルの必死な訴えに、アマネは諦めたのかため息を吐いて椅子にもたれ掛かると、パラパラっと超高速で本をめくって机に置いた。

そして頬杖を付く。

(こっちがため息吐きてぇ)

痛くなってきたこめかみを押さえると、ウィルは新聞を取り出す。

ロンドンタイムズに書かれている記事の一つに、目を引くものがあった。

「……なぁ。アマネ?」

「何ですか?」

「『黒の貴公子』って知ってるか?」

新聞を顔の前で広げたまま、ウィルはアマネに尋ねる。

「フランスの怪盗ですね。活動場所は主にパリですが。ああ、そういえば昨日ロンドン塔に予告状が届いたそうですよ」

「へー………は?」

あまりにも自然すぎて、ウィルはアマネの言葉を聞き流しそうになった。

「警部からの手紙の内容は、恐らくその怪盗に関することでしょう。後は未解決事件のことですね。けれども、それは警察の役目であって私の役目ではありませんし」

「え?え?ちょ、良いのかよ!?フランスの怪盗がロンドンに来てるんだぞ!しかも未解決事件まで放置って」

あまりにも無関心なアマネに、ウィルは慌てて新聞を置く。

「未解決事件の殆どが、警部達だけで解決しようと思えば出来るんです。私に頼らなくてもね」

「怪盗は?」

「興味ありません」

ドカッといい音をたて、ウィルは額を机に押し付ける。興味のあるなしで事件を選ぶなと嘆きたくなった。

「と言いたいところですが。良心が多少痛むので現場に行きます」

(………もう助手止めたい)
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