女探偵アマネの事件簿(上)
「……で、その捜査って?」

あの後、ウィルとアマネは再び向かい合った。

「ある男性が、家族を探してほしいと言ってきたそうです。名前はジューン。十二才の女の子で、三日前の夜中に居なくなったそうです。ですが、彼の話には不審な点がありました」

「?別に変なところは無さそうだけどな」

「ジューンと言うのが彼の娘さんなら、どうして『娘を探してほしい』と言わなかったのでしょう?それに、彼はジューンと同じベットで一緒に寝起きしているそうですが、彼の部屋は古いので、ドアを開けたら大きな音が響くので、部屋を出入りすればすぐに分かるそうです」

けれども彼はドアの開く音を聞かなかったらしく、彼の部屋には小さめの窓があるだけらしいと、アマネは語った。

「そこで少し詰まってしまいましたが、さっきのウィルの話を聞いて、ジューンの居場所が分かりました」

「え?何処だ?」

「酒屋の裏路地ですよ」

赤ん坊の泣き声が聞こえてくる場所と、ジューンに何の関係があるんだと、ウィルは眉を潜める。

「知っていますか?ウィル。大人の猫は他の猫とコミュニケーションを取るとき、赤ん坊に似た声で鳴くんですよ」

「………猫?」

「つまり、ジューンは十二才の猫です。いくら同じ年頃の子供を探しても見つかるわけありませんね」

それだけ言うとアマネは立ち上がり、コートを着て髪を後ろに一つ結びにする。

「私は男性から詳しく猫の特徴を聞き、その後イーストエンドに行きます」

「……その男の人。猫一匹に警察動かそうとしたのかよ」

たかが猫一匹、されども男性にとっては大切な家族の一員だろう。

「しょうがない。見つけに行くか!」

「そのいきですよ」


男性から話を聞き、無事ジューンを男性の元へ帰すと、男性は何度もアマネとウィルにお礼を言って、質のいいコーヒー豆を渡した。

コーヒー好きのアマネは、どことなく嬉しそうだったが、ウィルの方は疲れたような顔をしていた。

(まさか猫があんなにいるとは)

酒屋の裏路地は猫の溜まり場だったらしく、アマネとウィルは猫を引き剥がしながらジューンを探した。

いくら可愛くても、あそこまで密集されると怖いものだった。

(ま、アマネが嬉しそうだからいいか)

隣を歩くアマネを見ながら、ウィルは苦笑したのだった。
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