火事場の王子様
伝票の仕分けを終え、パソコンへの入力が半分に差し掛かろうとしていた頃
「皆、ちょっと手を止めてこっちに集まってくれる?」
と、常にえびす顔の白鳥部長(53歳)の号令がかかった。
部署の皆が何だ、何だ?とゾロゾロ部長のデスク前に集まる。
私たち事務員のデスクは部長のデスクから一番遠いので、部の男性陣が先に陣取ってしまうので前が見えない。
だから、こういう時は後ろでピョコピョコと飛びはねてしまい、玲とパート事務のおばちゃんズに苦笑いを浮かべられる。
「パタパタで話が聞こえないです。聡美さん、止まって」
と、玲に冷静に咎められ、小さく「はい」と返事をして耳に神経を集中させた。
「今日から病気療養の織部課長に代わって、営業部の大懸くんに来てもらうことになった。
もともと違う支社から異動してきたんだが、たった2ヶ月でうちの部署への異動だ。だから皆で支えながらやっていってくれると助かる。
大懸くん、簡単な挨拶お願いできるかな?」
コホン、と一つ咳払いをして低音な声が聞こえてきた。
「えー、大懸 芳晴です。ちょっとまだこの現状に驚きしかないのですが、皆さんのお力をお借りして頑張っていけたらと思います。宜しくお願いします」
話が終わったと判断した聡美は、またピョコピョコと跳ねだした。でも155㎝で大したジャンプ力もない聡美の視界に、まだ課長を捕らえることはできない。
その横で167㎝と長身の玲が、
「課長さん、なかなかのイケメンですよ」
「年はどれくらい?」
未だに小さく跳ねながら聡美は玲を振り替える。
「37ですよ」
と、いきなり視界いっぱいに男の顔が入ってきた。