夜の庭園ー少女たちの消える庭ー
校長先生の大きな手が、宥めるように私の肩を抱いてきます。

入口は閉じてしまったはずなのに、辺りにはまだ色濃く花の匂いが漂っています。

「影が、影が容子を連れていったの、真っ黒い影が......」

「落ち着いて、大丈夫だよ、大丈夫」

まくし立てる私に、先生は何度も何度も「大丈夫」と言い聞かせます。

要領を得ない私の説明に困惑する様子も、どういう意味だと尋ねることもなく、穏やかな顔で。

私がこんなに必死に助けを求めているのにーーー

ふと強烈な違和感を覚えて、私は口をつぐみました。

あまりにも近い場所から漂ってくる花の香り。

いいえ、花の甘い香りだけではなく、草をすり潰したような青臭く不快な匂い。

私はすがりついていた先生のワイシャツからゆっくりと手を離しました。

シャツに付いた得体の知れない粘液が、ねとりと糸を引くのがわかりました。
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