夜の庭園ー少女たちの消える庭ー
震える足で後ずさる私を、先生は穏やかな顔で「大丈夫、大丈夫」と宥め続けます。

そこにいるのは校長先生ではなく、魔物でした。

とてつもなく甘美でおぞましい匂いをまとう、闇の形をした魔物。

「大丈夫......容子ちゃんは大丈夫だからね......」

生々しい笑みの気配と共に、むせかえる程の匂いが迫ってきます。


私は声もなく逃げ出しました。



魔物は私を追ってはきませんでした。



走り通しで疲れきった体で家に辿り着き、部屋に戻ると、私は床にへたりこみました。

出ていった時と何も変わらない普段通りの部屋に呆然と座っていると、今夜起こった全てのことが夢だったようにも思えました。

「影」に連れ去られた容子、「夜の庭園」へと繋がったバラのアーチ、オレンジのバラを散らす少女の足、校長先生の姿をした魔物ーーー
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