約束
第一話

(約束だ!)

(ああ、約束!)

(俺は大人になったら……)

(約束……)

「ヨウ……」
 遠いところから名前を呼ぶ声が聞こえる。
「ヨウスケ……」
 呼ぶ声はどんどん大きくなる。
「洋助! いつまで寝てるの、起きなさい!」
 生まれてこの方、散々聞いてきた智子の声が部屋のすぐ外から聞こえてくる。
「うるせぇなあ。今日は学校休みって言っただろ!」
 布団から首だけ出して洋助は反抗する。
「嘘おっしゃい! 加藤君から電話があったわよ。今日は大事なゼミがあるのに高村君だけ来ないって」
(アイツ、余計なことを……)
「あぁ、分かったよ。行くよ行く。ちょっとしたら行くから大声出すなよ」
「まったくもう、早く行きなさいよ!」
 怒りを隠せない雰囲気で智子は階段を降りて行く。洋助はしぶしふ布団から起き上がり、ボサボサの髪を掻きながら時計を見る。針は十時半を指しておりゼミの時間はとっくに過ぎている。
(確か、あのクソ教授のゼミは十時からだったな。余裕で間に合わねぇし。よし、寝よう)
 洋助は悟ったように再び布団をかぶり横になる。
(あ、そういやさっき何の夢見てたっけ。何か懐かしい感じの内容だった気がするんだけど……)
 思い出そうとしながら再び眠りについた――――


――翌日、サボりのことをガミガミ言う智子をいつも通り無視して洋助はさっさと家を出る。智子を煙に巻くのは昔からお手の物だ。家から大学までは最寄りの駅から一時間の場所にある。
 大学は広い幹線通り沿いにあり、その周りは飲食関係の商業施設が多く見られた。道幅が広いせいもあり、運転免許を取ったばかりの大学生が結構なスピードを出して車の運転をしているのをよく見掛ける。
 洋助はコンビニで買ったハンバーガーを食べつつ、大学に続く歩道の前で信号機待ちをしながらその往来を眺める。
(あんなにとばして面白いのかね。車なんて金がかかるだけと思うんだけど)
 冷めた目で見つめていると対向車線の中央付近に、首輪と紐をつけた雑種犬がのんびり立ち止まっているのを見つけた。よく見ると道に落ちている残飯みたいなモノをあさっているようだ。
(オイオイ、危ねぇな。飼い主何やってんだ? ま、俺には関係ねぇけど)
 青信号に変わったのを確認してから洋助は横断歩道を渡る。その姿を道路に居座る犬がじーっと見ていた。

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