いらっしゃいませ
さてと。
暖かいものでも、いかが?
メニューを見せていると…
コンコン。と、控えめな音がして、
チビちゃんの、ご注文お決まりですか?の
声が聞こえた。
その女性は、遠慮がちにドアから顔半分だけ
見せているチビちゃんに、ちょっと笑い。
キリマンを下さい。と、微笑んだ。
はーい。と、ニコニコ顔のチビちゃんが
去って行くと。
可愛らしい人ですね。
と、彼女は言った。
あの子は、うちの看板娘でね。
家の前で拾ったんだよ。
どうも、これまでの記憶が無いらしくてね。
だから名前はチビちゃんさ。
まあ…。
忘れてしまった方が幸せなこともあるさ。
おまえさんは、何を忘れたいんだい?
とわこさん…。
あたし…親友の彼を…
好きになってしまって。
…おやまあ。
初めは…想ってるだけでよかったのに。
あかりの彼は…
あたしが、あかりの親友だから、
いつでも優しくしてくれて。
それだけだって、わかってたのに…
どうしても、諦められなくなってしまって。
あかりと別れて、あたしと付き合って
くれないかな。って…。
言っちゃったのかい?
は…はい…。
怯えるように、小さな声でそう言った。
後悔してるんです!
なんてこと言っちゃったんだろうって。
あかりに合わす顔が無いです…。
もう、どうしたらいいか…
とうとう、ポロポロと涙が落ちる。
そこへ、またコンコンと音がして。
お待たせしましたー。
と、チビちゃんがコーヒーを持ってきた。
可愛らしいカップと、クッキーを載せた
トレーを、静かに置くと。
チビちゃんが、何にも言わずに
いい子いい子とばかりに、頭をなでる。
泣き顔でチビちゃんを見上げた彼女は、
ふっと笑って、ありがとうございます…。
と、力無くつぶやいた。