ラヒの預言書
神殿内は走ってはいけない為、早る心を抑えて速足で花の束を運んだ。
一度に持ち過ぎたせいか、前が良く見えず足先が覚束無い。
横から時折、足元を確認しながら歩く。
「ちょっとはりきり過ぎたか?おっと……、もうちょっと…」
やっとの事で神殿の祭壇に辿り着くと、早速、花瓶へ水を入れる。
音を立てずにゆっくりと、一つの水滴も残してはいけない。
「それにしても、どうしてこんなに静かなんだ?いつもは誰かしらは居るはずなのに……」
神花を生けていると、ふと祭壇に置かれている古めかしい巻物に目が止まった。
「ん?神願紙かな?それにしては古そうな巻物だし…、今から誰か祈願に来るのか?誰も来なそうだけど……。先の方の忘れ物だったらまずいな?それなら神官長様にお渡ししなくては」
年代物の巻物を手に取ると、チラリと文字が見えた。
「古代文字……珍しい、古代ラヒ語。えっと、古より…伝えられし…純血の…ここは何だっけ?前に見たんだけど…んっと次は…来たれり。その者神に……授けられし…ん~…後は調べないと流石に分かんないか...........なんか悔しいな」
その時、鋭い声が神殿内に響いた。
「おいっ!お前!!」
知らぬ間に後ろに人が居た事に驚き振り返ると、そこには身なりの整ったデルガ(貴族)らしい若い男がお供を従え立っていた。
「あっあの……!」
(どっどうしよう、勝手に見てたのバレた?)
「お前……今、それを読んでいたな?」
「いっいいえ!!古代ラヒ語など私にはさっぱり……ですからー」
「アルツァ!」
ソルの返答に答えもせず、その若い男はまたしても大きく鋭い声を上げた。
人に指図する事に慣れている、名家の子息の様だ。
「この者を連れて行く。見たところ神官見習いの様だ。指して問題もあるまい。ライズに了解を取っておけ」
「御意に」
「さぁ、参るぞ!」