ラヒの預言書
「ほほう…。お優しい皇后様におかれましては、御加減の方は如何でしょうか?何やら賊に襲われたとか?」
その瞬間、グッとソルの肩を掴んでいたキルバルの手に力が入った。
(痛っ!!何!?)
「ご心配には及びません。傷も癒え、今は健やかに御過ごしです」
「それにしても、恐ろしい事ですな、貧しい民に施しをしに行かれたとゆうのに、逆に賊に襲われるとは」
声の調子とは反対に、怒りに耐えているのか、更に掴む力が強くなった。
(この人…怒っている…)
「また、この様な事があれば、この私が今度は地の果てまで追いかけて捕まえて見せましょう。その時は関係した者全てを吐かせて、八つ裂きにして御覧にいれましょう」
殿下と呼ばれるその男が嬉々として、それでいて挑戦的に応える。
「っ!!?そっそれは頼もしい事ですな!そっそれでは、私はこれで失礼いたします!」
マントの隙間からは、いそいそと逃げる小男の背中に向けて、舌打ちと毒づく声が微かに聞こえて来た。
漸く一つの部屋に通されると、それまで覆っていた視界が一気に開かれた。
余りの眩しさに一瞬目が眩んでいると、こちらの状況などお構い無しに指示が飛ぶ。
「そこに座れ」
ゆっくりと明るさに目を慣らしながら開くと、そこは豪奢な調度品で囲まれた広い部屋だった。
「お前、名は?」
直ぐ様跪くと、口に指を添え、ギルドラにしか行わない最高礼をもって挨拶をした。
「神官見習いのソルと申します。キルバル殿下とも知らず無礼の数々、どうかお許し下さいませ」
「礼もままならぬ様だな…」
キルバルの側近が侮蔑の眼差しでソルを見下げる。