ラヒの預言書
6. キルバルの憂鬱
丸い円卓に蝋燭の火が幾つも揺らぐ中、囲む様に5人の人影がそれぞれの椅子に座っている。
一人は背もたれに凭れる様に座り、一人は神経質にテーブルの上に指を立てている。
一際豪華な椅子には、ローブを深く被った人物が、侍従を従えて座っていた。
「今回の謀り事、首尾はどうなっている?」
後に控えている侍従がその問に答えた。
「給仕の侍女に、一人こちらの者を紛れ込ませました。次の月の満ちる満月の日、神殿での慣例の祭儀が行われます。その後に宮殿にて宴が催される事になっております。第二王子が宴を取り仕切る為、王后様も御目見えするとか...........酒壺にこの毒を一匙入れれば、皆様の希望通りになるかと」
「証拠は残すなよっ!道ずれにされたら堪ったもんじゃないっ!!」
「失敗したら僕達は道連れ?死ぬの?死にたくないっ!!」
「その女に任せて大丈夫なのか?」
「お任せ下さい。しくじれば、その場で自害する様に言い渡しております。家族も既に人質に押さえてあります故、裏切る事はないかと」
「そうか...........それならいいか?」
「家族が人質になるの?僕には意味分からないなぁ.......家族ってそんなに大事なもの?」
「後は用無いだろ?俺は帰るぞ」
「私も戻ろう...」
「僕も何だか眠くなっちゃった...........」
「私もこの後用事があるのよ」
「それではここら辺でお開きに致しましょうか。次お会いする時はより良い話が出来ることでしょう」
そう言うと侍従の男は、全ての蝋燭の火を吹き消して回ると、最後まで卓に残っていた主に近づきそっと抱き上げた。
「御安心下さい。貴方様の安寧は、私が必ず守ります...........」
「殺せ...........殺せ...........全て殺してしまえ...........殺せ...........」
「ご主人様...........少しお休みになって下さい」
磨き上げられた石の廊下に足音を響かせて、その侍従も薄暗い部屋を後にした。