ラヒの預言書
「キルバル。」
ロメエルは、キルバルを制すと、ゆっくりと一口お茶を飲んだ。
「私はこれでも今では正室なのです。暗殺を恐れて宮に引き篭れば、皆に示しが着きません。それに私は、どんな時も王様から離れません」
「それは、そうですが.......」
芯の強い瞳がキルバルを見据える。
一見凛として冷たそうな面立ちだが、その瞳の奥は慈愛に満ちて計り知れない。
何よりもそんな母親の瞳が好きだった。
この瞳に見つめられると、キルバルは首を縦に振るしかない事はいつも分かり切っている。
「王様とお前が護ってくれるから大丈夫です。それにこの私が簡単に賊に殺られると思うのですか?いざとなったら剣を持って闘います!!」
「母上.......」
「フフフフッ」
いくつになっても少女の様に純粋で、それでいて突拍子もない事を言って退ける、そんな凛々しい人。
「そう言えばキルバル.......寵妃が出来たとか?本当ですか?どこの娘です?」
「いえ.......あの.......寵妃といいますか、まぁ.......近くに置いている者はおります」
ロメエルは好奇心に充ちた目でキルバルを見ている。
「何ですかキルバル?ハッキリしないその物言いは?アルツァ、どの様な娘なのです?」
キルバルは咄嗟にアルツァに目配せを送るが、当の本人は目を合わせようともしない。