ラヒの預言書
⒐贈り物
連日の様にアルツァは、間近に迫った月祭儀の準備に追われていた。
いつも完璧にこなすアルツァだが、今回は特に抜かりのない様に目を光らせる。
「キルバル様の指示通り、大体の事は全て整ったな。後は当日の警備の強化か.......何も無く無事に終わればよいが.......」
「アルツァ様」
「どうした?」
声の主に振り返ると、新しくキルバルの侍女頭になったレロウが立っていた。
少し前までステーシアの下に付ていた侍女だ。
ステーシアがソルに付けている代わりに、彼女が自ら推薦した侍女だった。
働きぶりも申し分無く、愛想はあまり良くないが、仕事は卒無くこなす優秀な侍女である。
アルツァもそれを見込んで何件か仕事を任せていた。
「キルバル様の祭儀用の衣で御座いますが、こちらの色で宜しいでしょうか?」
「あぁ.......色はこれでよい。髪飾りは金を基調とせよ」
「かしこまりました。それではソル様の衣もその様にお伝え致します」
「そうか、忘れておった。ソル様は仮にもキルバル様の唯一の寵妃、故にキルバル様と衣の色も合わせねばならぬのか。初めての事ですっかり見落としていた.......それならばー」
アルツァが思い倦ねていると、勢い良く扉が開いた。
あの東屋から帰還した主は、心無しか生き生きしてる様に見受けられる。
「お戻りですかキルバル様」
「あぁ。.......レロウ、喉が渇いた.......茶を淹れてくれ」
「かしこまりました」
レロウと侍女達が甲斐甲斐しくお茶の支度を整えている間、キルバルは終始笑顔でその光景を眺めていた。
「レロウ、この花瓶の花はとても綺麗だな.......」