ラヒの預言書
「はい、今朝方ロメエル様の許しを得て、東屋の近くで摘んで参りました。あの場所は珍しい花も多く、今が満開でとても美しいですので」
「おぉ.......そうか。確かに美しかったな。」
花瓶の花に対して熱っぽい視線を送るキルバルに、若い侍女達は、すっかり惚けて手が止まっている。
アルツァだけは、訝しげに横目で主を観察していた。
「そんな顔して花を口説くのは止めて頂けませんか?侍女達が使い物にならなくなるので」
「大袈裟な……」
「そう思うなら周りを見てからにしてください」
頬を真っ赤に目を逸らす侍女達に、キルバルは押し黙った。
「なんだその目は?私は唯、花を愛でただけではないかっ」
「花.......ですか。ええまぁ、それならば何も問題ありませんが.......。それはそうとキルバル様、私も忘れていたのですが、正式に寵妃として祭儀に同席するのならば、祭儀用にソル様に髪飾りを贈られないといけません。」
キルバルはフンッと鼻で笑うと、花瓶の花を一本取り出して大きく息を吸った。
「既にあつらえておるわ」
「流石ですね......それでは双玉の方もご用意で?」
「いや.......それはよい」
まるで蝋燭の火が消える様に、フッとキルバルの笑みが消えた。
「差し出がましい事を申しました。お許しを」
「よい。それより祭儀の準備は滞りないか?」
「はい。抜かり無く、後は当日の警備の強化の確認を」
「分かった」
「キルバル様、菓子はお召し上がりになられますか?最近、姫様方に大変人気の物なのですが、如何ですか?」
お茶に添えられて置かれた菓子は、いつもより可愛らしい焼き菓子で、一つ一つ違う花の形を模した物で初めて見るものだった。
一つ手に取り食べてみると、なんとも甘くて、キルバルの口には甘過ぎたが、同時にソルの顔が浮かんで来た。
「レロウ、この菓子をソルに届けさせよ。アレは甘い物に目がないからな」
「かしこまりました」
「それからこの花も、髪飾りと一緒に.......」