ラヒの預言書
10. ガドランの苛立ち

「何故、戻らない.......」


あの日から、主のみを無くした部屋の寝台に腰掛け、ガドランが独りごちた。

大神殿に神花を生けに行ったまま、既に3ヶ月は過ぎようとしていた。

一緒に出家した侍従のリロに、散々調べさせたが、一向にソルの所在は分からないまま。

そんなままならない状況に、ガドランは苛立ちと不安が募っていた。


「ライズ様は何か知っているご様子なのですが、その他の者は皆口を揃えて、“ ソルはカミラの神殿の古い書庫の片付けを手伝っている ”の一点張りで、何とも進展がありません.......」


「そうだとしても、全く姿も見せず、部屋にも戻る気配も無いのはおかし過ぎる、何か事件にでも巻き込まれているのではないのか?」


「ガドラン様.......例えそうだとしても、私達には何の関係も無い事。下手に関わって上の機嫌を損ねるのは頂けないかと.......」


「そんな事は分かっているっ!!だから一目だけでも彼奴の顔を見ればそれでいいのだ!!リロっ!!何とかしろっ!!」


「分かりました。見つかる迄お捜し致します」


リロは小さく溜め息を吐き、少し肩を落とすと、ガドランに頭を下げて部屋を出て行った。


「一体お前は何処にいる.......一目でいい、顔を見せてくれ.......彼奴が俺に何も言わずに居なくなる筈が無い.......」


ソルの部屋の小窓からは、中庭が広がっている。

丁度その庭には見習いが初日に洗礼を受ける沐浴の井戸が遠くに見えた。


「初めて彼奴と話したのもこの場所だったな.......」
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